2025年夏、Airbnb(エアビーアンドビー)が発表した「Hidden Culinary Gems(味覚の穴場)世界10選」に、日本から唯一、東京都荒川区が選出された。
渋谷、新宿、上野、浅草のような有名観光地ではなく、下町の一角が世界の注目を集めるのは極めて異例だ。だが、そこには明確な理由があった。
公式リリース
https://news.airbnb.com/summer-travel-trends/
Arakawa City, Japan, is a quieter alternative to bustling Shibuya. Situated in eastern Tokyo, it’s a haven for food lovers, featuring ramen and gyoza classes, and Joyful Minowa, a lively shopping arcade with traditional, family-run kissaten coffee shops.
荒川区は、にぎやかな渋谷とは打って変わり、静かな場所である。東京東部に位置し、ラーメンや餃子づくりの体験教室、伝統的な家族経営の喫茶店が並ぶ活気あふれる商店街「ジョイフル三の輪」がある、グルメ愛好家の楽園だ。


荒川区のどこが評価されたのか
Airbnb(エアビーアンドビー)公式発表では、荒川区を「にぎやかな渋谷とは打って変わり、静かな場所」と紹介。ラーメンや餃子づくりの体験教室、家族経営の喫茶店が並ぶジョイフル三の輪商店街など、観光地化されていない「リアルな東京の日常」が高く評価された。
さらに、次のようなアクセス面のメリットも大きな理由となっている。

- 都心への近さ
- 日暮里駅から上野駅までわずか約3分、東京駅へは約10分。
- JR山手線(日暮里・西日暮里)、京浜東北線(日暮里・西日暮里)、東京メトロ千代田線(西日暮里・町屋)、京成線(町屋・新三河島・日暮里)など主要路線が集まり、都内各所へスムーズに移動可能。
- 空港アクセスの良さ
- 成田空港から京成スカイライナーで日暮里駅まで最速36分。
- 日暮里駅は、京成線とJRが直結しているため、到着後すぐに都内主要エリアへ移動ができる。(京成上野駅からJR上野駅に移動する場合、屋外に出て信号を渡る必要があるため、JR乗り換えは日暮里乗り換えが便利)
- 羽田空港からも40~50分でアクセス可能。(羽田空港でモノレールか京急に乗り、JRに乗り換え)
- 宿泊費の安さ
主要5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)と比べて約20%安く、コストパフォーマンスに優れる。
これら「安く、便利で、奥深い」滞在地としてのバランスの良さが、世界の旅行者に選ばれる大きな要因となっている。
「本物のレトロ」が生きている街
荒川区の魅力は、他の街にあるようなわざと作られたレトロ感ではなく、昭和から続くリアルな街の風景がそのまま残っていることにある。ジョイフル三の輪商店街に並ぶ喫茶店や惣菜屋は、何十年もの時間を経て地域に根づいた“生活のなかのレトロ”だ。再開発の波を受けず、暮らしと歴史が同居する風景が、海外から見れば鮮烈な個性となる。




モデルコース:半日で味わう「レトロと食」
荒川区を初めて訪れる人におすすめの半日コース。
観光地らしさはないが、それがむしろ新鮮で印象深い。

- 午前:ジョイフル三の輪商店街散策
• 昭和の風情残る喫茶店でモーニング(白鳥)
• 惣菜屋・駄菓子屋めぐり - 昼:料理体験 or ローカルランチ
• 餃子・ラーメン作り教室
• ラーメン店で食事(ラーメン屋 トイ・ボックス、喜多方ラーメン 新じま、濃厚鶏麺 ゆきかげ 三ノ輪店)
• そば屋でそば・天丼を食べる(砂場総本家) - 午後:都電荒川線でレトロ散策
• 都電荒川線に乗って沿線散歩(普通運賃:大人170円(IC 168円)/小児90円(IC 84円)。都電一日乗車券:大人:400円 / 小児:200円)
• 23区内唯一の公営遊園地である荒川遊園にも足を伸ばす

中島弁財天で歴史を感じる
三ノ輪橋から徒歩5分。荒川一中前から徒歩1分。
そこに佇むのが、中島弁財天(なかのしまべんざいてん)。
江戸時代から伝わる由緒と、現代に受け継がれる地域の取り組みを紹介する。

由来と歴史
- 伊勢亀山藩下屋敷の弁天池
江戸時代から明治二年(1869年)の版籍奉還まで、当地は大名・伊勢亀山藩主石川家(六万石)の下屋敷および抱屋敷だった。その屋敷内には大きな弁天池があり、池の中の島に祀られていたのが「中島弁財天」である。 - 銭湯「元弁天湯」と弁財天石像
大正時代創業の銭湯「元弁天湯」は、関東大震災や空襲をくぐり抜け、建物自体が「都内最古級」と称されたが、東日本大震災で配管被害を受け閉業。その女湯の脱衣場中庭に置かれていた七福神の弁財天像が、縁あってジョイフル三の輪商店街に譲り渡された。
以来、開運・商売繁盛・芸術・学業成就などの神様として大切に安置されている。
商店街の守り神として
- ジョイフル三の輪では、中島弁財天祭りや子ども縁日(弁天市)を毎年開催。
- 毎月11日には「弁天セール」を実施し、願掛け札を「弁天池」ゆかりの水に溶かして奉納し、商売繁盛や学業成就を祈願するイベントも行われている。
- 商店街アーケードの中ほどに設けられた小祠(しょうし)には、地元の人々が日々手を合わせ、地域の守り神として守り続けている。


世界が求めるのは「暮らしの見える旅」
Airbnb(エアビーアンドビー)の調査によれば、旅行者の消費の約4割が滞在地域で使われている。荒川区のように観光地化されていない街こそ、旅行先としての価値が高まっている。演出ではない、飾らない街の日常に触れることで、旅はより深く、記憶に残る体験となる。



荒川区は、“知られていなかった東京”の最前線
荒川区がAirbnb(エアビーアンドビー)に選ばれたのは偶然ではない。昭和からの歴史をそのままに、地域の生活と共に息づくこの街こそが、“本当の東京”を映し出す場所だ。ジョイフル三の輪での食体験、中島弁財天での静寂散歩。どちらも、ガイドブックには載らない、荒川区ならではの旅の醍醐味である。
