2025年7月20日午後、JR山手線の電車内で乗客が使用していたモバイルバッテリーが突如発火。乗客5人が負傷し、山手線を含む複数路線が最大2時間にわたり運転を見合わせる事態となった。発火した製品は、すでに消費者庁がリコール対象として公表していた危険製品だった。
事故の概要
- 発生日時:2025年7月20日 午後4時10分頃
- 場所:JR山手線内回り(新宿〜新大久保間)
- 状況:スマートフォン充電中のモバイルバッテリーが異常加熱し、約30秒後に発火
- 被害:所有者の女性が手にやけど/乗客計5人が軽傷
- 車内:消火器で初期消火されたが、煙が充満し一時パニック状態に
消費者庁は使用中止と回収を強く呼びかけていたが、リコール対象製品が市場に残存していたことが今回の事故につながった。
運行停止の影響
発火直後、乗客の一部が線路に避難したことで安全確認が必要となり、JR東日本は山手線全線の運転を一時停止。さらに、並走する中央線快速・中央・総武各駅停車・埼京線・湘南新宿ラインも運転を見合わせた。
- 山手線内回り:約2時間停止
- 山手線外回り:約1時間停止
- 影響人数:約9万8000人
- 新宿駅・東京駅などでは帰宅困難者が発生し、SNSには「帰宅難民状態」との投稿が相次いだ
発火製品の特定
事故原因となったのは「cheero Flat 10000mAh(型番:CHE-112)」と見られる。大阪市のティ・アール・エイ株式会社が2019年12月〜2021年8月に約39,300台を出荷した製品で、2023年6月にリコール対象として告知されていた。2021年度以降に16件の火災事故が報告されており、消費者庁は直ちに使用を中止し、回収に応じるよう強く呼びかけている。
項目 | 内容 |
---|---|
商品名 | cheero Flat 10000mAh |
型番 | CHE-112 |
JANコード | 4589481021231 / 1217 / 1224 / 1200 |
販売期間 | 2019年12月15日〜2021年8月23日 |
リコール開始日 | 2023年6月15日 |
対応内容 | 回収・返金 |
リコール制度の限界──「回収率」という指標の不確かさ
- リコール制度は自主回収を基本とし、企業の誠実な対応に依存している。
- しかし、回収率は販売台数に対する回収数で算出されるため、すでに廃棄された製品も含まれてしまう。
- 経年劣化や使用終了による自然減を考慮した「残存率推計」が必要とされているが、制度上は未整備。
情報伝達の課題──「知っていたら防げた事故」はなぜ起きるのか
- 消費者庁や事業者はリコール情報を公表しているが、消費者がそれを知る手段は限定的。
- 製品登録制度は任意であり、購入者の特定が困難。販売店経由の通知も非会員や現金購入者には届かない。
- SNSやWeb広告による周知は進んでいるが、炎上リスクや情報の信頼性の問題もあり、活用が限定的。
構造的課題──流通・輸入・ブランドの多様化
- 輸入事業者が製品の技術情報を持たず、事故原因調査に協力できないケースがある。
- ネットモール経由で販売された製品は、事業者の所在が不明確で、リコール手続きが機能しないこともある。
- 同一外観の製品が複数ブランドから販売されることで、消費者がリコール対象かどうか判断できない。
改善の方向性──制度設計と技術の融合
消費者庁・経産省・ネットモール事業者の連携による、リコール情報の一元化と自動通知システムの構築が求められる。
製品登録の義務化や、販売時点でのリコール通知同意取得など、制度的な設計変更が必要。
IoT家電のように、製品自体がリコール情報を受信・通知する仕組みの導入も有効。
消費者庁が公表しているモバイルバッテリー使用時の注意ポイント
- リコール対象製品か確認する 購入済み・使用中の製品がリコール対象でないか、消費者庁のリコール情報サイトで確認する。
- PSEマークの有無を確認する 新規購入時は、電気用品安全法に基づく「PSEマーク」が表示されているかを必ずチェック。表示がない製品は国内販売不可。
- 高温・衝撃を避ける 本体に強い衝撃や圧力を加えない。直射日光下の車内など高温環境に放置しない。
- 充電中の周囲に可燃物を置かない 紙・布などの可燃物を近くに置くと、発火時に延焼リスクが高まる。
- 異常を感じたら即使用中止 膨らみ・異常な発熱・異臭などがあれば、直ちに使用をやめる。
- 水濡れ・破損に注意する 濡れた手での操作や水回りでの使用は避ける。コネクタ部分の破損にも注意。
- 公共交通機関の持込規則を確認する 電車・飛行機などでは持込制限がある場合がある。事前に確認し、規則に従う。
- 使用済み製品は適切に処分する