ヒグマの駆除方法と使用する銃

ひぐま 政治

日本では、ヒグマの出没が年々増加し、人間の生活圏との衝突も深刻化している。この記事では、ヒグマの駆除に関する現実的な方法と、武器の選択、急所、突進速度などを科学的かつ実践的に解説する。

クマの危険性とは?

ヒグマは最大で体長2.5m、体重400kg以上にもなる。
突進速度は時速40〜50km(秒速約12〜14m)。
100m先からでも、わずか7〜9秒で接近してくる。
至近距離での遭遇では、逃げ切ることも避けることもほぼ不可能。

駆除に使われる銃の種類とその威力

種類到達深度(対ヒグマ筋肉/骨)致命性即効性備考
散弾(バックショット)× 5~15cm程度△ 不確実(部位次第)△ 運次第粒が分散、皮下止まりも多い
スラッグ弾(単発弾)◯ 20~40cm前後◯ 有効(心臓・脳貫通可)◯ 条件次第で即停止散弾銃の中では熊用定番
大口径ライフル弾(.375 H&H, .30-06, .45-70)◎ 40~60cm超(骨・頭蓋も貫通)◎ 致命的(1発で即死あり)◎ 極めて高い北米・北海道の熊猟では標準

散弾(バックショット)

  • 12ゲージ 00番(9mm程度の鉛玉9発)が主流
  • ヒグマの脂肪・筋肉・毛皮に吸収されることが多く、皮下で止まる
  • 至近距離(10m以内)で顔・目・喉など柔らかい部位限定なら有効だが致命傷を与えられない。
  • 基本的には「威嚇・時間稼ぎ用」

スラッグ弾(12ゲージ)

  • 鉛の巨大な単発弾(約28g〜32g)、飛距離は短いが破壊力大
  • 胸部貫通→心臓や肺に到達すれば致命傷
  • ただし命中精度が必要(射程は実質50m以下)

ライフル弾(.375 H&H Magnumなど)

  • 極めて高威力で、骨や頭蓋を貫通できる
  • 例:.375 H&H → 約4,000ジュール超、直径9.5mmの弾頭が時速800m以上で飛ぶ
  • 頭部や心臓を正確に撃てば即死〜5秒以内に倒れる
  • 事実上、大型獣を確実に倒す唯一の手段

ショットガンとライフルの違い

比較項目ショットガン (Shotgun)ライフル (Rifle)
銃身内部ライフリングなし(滑腔)「ライフリング(螺旋状の溝)」あり
弾道弾が拡散する(広がる)弾が回転してまっすぐ飛ぶ
弾薬の種類散弾(複数の小球)やスラッグ(単発の大粒弾)単一の金属弾(例:5.56mm、7.62mmなど)
装填方式ポンプ式・レバー式・半自動(装弾数は少なめ)マガジン(多弾倉)式
有効射程近距離(10〜40m)中〜長距離(100〜600m)
命中精度低い(広範囲に当たる)高い(スコープ使用で狙撃可能)
威嚇効果大きい(発射音・銃口径ともに派手で視覚的威圧感あり)小さい(静かで細身、外見は控えめ)
用途突入、ドア破壊、近接戦闘特殊部隊、パトロール、狙撃
警察使用例Remington 870、Mossberg 500 などAR-15、M4、HK416 など
備考「近距離を一気に制圧する武器」「精密に遠くを狙う武器」

散弾の種類とペレット数(12ゲージの場合)

弾種(例)粒のサイズ(直径)ペレット数(1発あたり)主な用途
#9ショット約2.0mm約500粒クレー射撃、鳥類狩猟
#7.5ショット約2.4mm約350粒小動物狩猟、スポーツ
#4ショット約3.3mm約135粒ウサギ、アライグマなど
#00バックショット約8.4mm約8~9粒人間・大型動物用。警察・軍用にも使用
#000バックショット約9.1mm約6~8粒最大級の散弾。貫通力大

イメージ

  • #9ショット → 砂利のような超細かい粒。広く拡散。
  • #00バックショット → ピンポン玉の小型版が8個飛んでくるイメージ。

拡散範囲

  • 距離が伸びるほど弾が広がる(拡散角は約1インチ/ヤード=2.5cm/メートル)
  • 例えば:10m離れれば直径25~30cmの円に広がる
  • その中に8発のバックショットが飛んでくる=命中率が高い

ヒグマ駆除において、日本では ライフル銃の方が主流。スラッグ弾(散弾銃に装填する単一の弾頭)も使われることはあるが、以下の理由からライフルの方が多く用いられる。

ヒグマ駆除における使用傾向

区分散弾銃(スラッグ弾)ライフル銃
使用頻度補助的・予備的に使われる高い(主力)
有効射程50〜70メートル程度数百メートル
威力・貫通力やや劣る高い
命中精度散弾銃より精密な狙撃可能高い(スコープ付きが多い)

どちらが扱いやすいか?

観点散弾銃(スラッグ)ライフル銃
初心者への扱いやすさ比較的扱いやすい取り扱いに訓練が必要
重量・反動比較的軽く反動もマイルド重く、反動も大きめ
弾の入手性入手しやすい弾の所持に制限あり、管理厳格

初心者や猟友会レベルではスラッグ弾の散弾銃が扱いやすいが、
本格的な駆除(猟師、自治体の委託駆除など)ではライフルが基本。


二つ折り(折り畳み)について

種類折り畳み(ブレイクアクション)可能?
散弾銃○(単発・二連式などに多い)
ライフル銃△(一部のブレイクアクション式のみ)

多くの散弾銃(特に単発式や上下二連、水平二連)は「ブレイクアクション」と呼ばれる機構で二つ折りにできる。
ライフル銃は基本的にボルトアクションや自動式が主流で、二つ折りにはできないことが多いが、一部の特殊な「シングルショット・ブレイクアクションライフル」などでは可能。

  • 日本では猟銃の所持許可が厳しく、ライフル銃の所持には10年近い経験や実績が求められるため、スラッグ弾の散弾銃から入る人が多い。
  • 北海道でのヒグマ駆除においては、熟練の猟師が.30-06スプリングフィールドや.308ウィンチェスターなどのライフル弾を使用するケースが多い。

クマの急所:どこを狙うべきか?

  • 即時制圧性の高さ順(理想的な効果)
     脳幹 > 頸椎・上部脊髄 > 胸骨上部の大血管・気管 > 心臓
  • 命中しやすさは、
     後方からの頸椎・上部脊髄狙いが最も実践的。
     前方からは胸骨上部や心臓が比較的狙いやすいが、頸椎貫通は難しい。

前方から狙うべき場所

部位位置の目安特徴・効果
頸椎・上部脊髄首の前面
喉の奥〜首の根元あたり
呼吸中枢や運動神経の即時遮断。
即時制圧力最大。
だが命中は非常に難しい。
胸骨上部中央付近胸の中央やや上
胸骨の真ん中付近
大動脈や気管を破壊し、呼吸・血流の急停止を狙う。
心臓より即時性が高い。
心臓部胸の中央左側
(第3~5肋間あたり)
心停止を狙う。
即時制圧はやや遅いが致命的。
スラッグ弾や大口径ライフルであれば胸を貫通することも可能。

後方から狙うべき場所

部位位置の目安特徴・効果
脳幹頭の後ろ側
首の付け根の深部
呼吸・心拍・意識中枢。
即死に等しいが狙いづらい。
頸椎・上部脊髄首の後ろ
うなじ中央〜肩甲骨上部付近
運動神経・呼吸中枢の遮断。
即時制圧力が高く、狙いやすい場所。

狙っても意味がない場所

部位理由
腹部致命傷にはなりにくく、かえって興奮させる
四肢(足など)一時的に動きを止められる可能性もあるが、極めて危険。逆襲される可能性大
背中・肩甲骨分厚い脂肪と筋肉、骨で防がれやすい

実戦での対応:100m先でも時間はない

100m離れていても、クマはわずか7〜9秒で突進してくる。したがって、ライフルであっても「構えて撃つ時間がある」とは限らない。現場では

  • 発砲判断を迷わない
  • スコープではなくオープンサイトで即応
  • 狙えるまで撃たない判断

といった冷静な判断が必要。

駆除は誰が行うのか?

原則として、有害鳥獣駆除の認可を受けた猟友会や自治体の専門職が行う。一般市民が勝手に撃ったり追い払ったりするのは違法。山間部の住民は、自治体・警察・猟師と連携して行動する必要がある。

「麻酔銃で山に返せ」は非現実的

麻酔銃でクマを眠らせて山に返せという主張は、野生動物と薬理の現実を無視した空論。

  • 麻酔は効き始めるまでに数分〜十数分かかる。その間に暴れる、逃げる、襲いかかる可能性が高い。
  • 体重や個体差によって必要量が変動する。誤れば効かないか、逆に死ぬ。
  • 銃器と同じく命中精度が必要。距離、動き、天候など条件がそろわなければ当たらない。
  • 捕獲・搬送・再放獣には多数の人員と設備が必要。現場で即時対応できる体制ではない。

実際、麻酔銃を用いたヒグマの安全な捕獲は、日本全国で見てもごく限られた特殊例しか存在しない。

「クマを殺すな」という主張が非現実的な理由

SNSや一部メディアでは「クマも生き物」「駆除するな」という声が散見されるが、それは命の危機に直面していない都市部の空論に過ぎない。

  • クマは一撃で人を殺す。甘噛みや威嚇では済まない。
  • 一度人里に味を覚えたクマは再び現れ、より大胆になる。
  • 家畜を殺され、農作物を荒らされ、人が襲われてもなお放置する選択肢は存在しない。
  • 銃刀法と麻薬取締法により、使用できるのは免許を持つ獣医師のみ。
  • 意識を失った後のヒグマは300kgの巨体。山奥まで運ぶ手段がない。
  • 回復後に再出没する可能性も高く、意味がないどころか危険を増す。

自然との共生を語るのであれば、人命を優先する判断が大前提。共生とは、命を懸けてまで無抵抗を貫くことではない。

鳥獣保護管理法の改正

従来の法律では、住宅密集地=猟銃の使用が原則禁止だったため、出没時の対応が警察頼みとなり、対応が後手に回る事例も多かった。

この状況を受けて、2025年4月18日、「改正鳥獣保護管理法」が参議院本会議で可決・成立
市街地での猟銃使用を市町村の判断で特例的に認める制度が新設された。

従来は「ハンターに任せる」体制だったが、今後は

  • ハンターの選定
  • 駆除実施の判断
  • 安全措置・通行制限
  • 損害補償

まで自治体が包括的に管理・責任を持つ形となる。

項目内容
根拠法改正鳥獣保護管理法(2025年4月18日成立)
施行時期公布から6か月以内(2025年10月までに施行予定)
対象動物ヒグマ・ツキノワグマ・イノシシ
使用地域住宅密集地(市街地)を含む人の生活圏
使用主体市町村から委託を受けたハンター(狩猟免許保有者)
使用条件以下4条件すべてを満たす必要がある:① クマ等が住宅地に出没・侵入している② 緊急に危害を防ぐ必要がある③ 迅速に捕獲できる代替手段がない④ 住民の安全確保措置が取られている
安全対策市町村が通行制限・避難指示等を実施。弾の誤射による損害補償も市町村が負担
実務支援環境省が「ガイドライン」「ハンターリスト」などを整備予定(2025年秋までに)

命を守る判断とは

ヒグマは自然の一部であり、むやみに殺すべき存在ではない。しかし人命や生活が脅かされる状況では、適切な手段で排除する判断が必要。

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