日本の警察:使用している拳銃

政治

日本で拳銃の所持が認められる職業

日本で拳銃の所持が法的に認められている職業は、限定されている。銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)によって、銃器の所持は厳しく規制されているからだ。以下の職業が該当する。

1. 警察官

日本の治安維持を担う警察官は、職務遂行上、拳銃の所持が認められている。勤務中に警察組織から貸与される。

2. 自衛官

国の防衛を任務とする自衛官も、職務遂行上、拳銃を含む各種銃器の所持が認められている。部隊や組織から貸与される。

3. 海上保安官

日本の領海や排他的経済水域における法執行、海難救助、海上警備を行う海上保安官も、職務遂行に必要な拳銃の所持が認められている。組織から貸与される。

4. 麻薬取締官

薬物犯罪の捜査と取り締まりを任務とする麻薬取締官も、職務遂行上、拳銃の所持が認められている。薬物密売組織や暴力団など、危険な犯罪組織と対峙する場面が多いため、自己防衛や職務遂行のために拳銃を携行する必要があるからだ。これも組織からの貸与で、厳格な規定のもとで管理・使用される。

5. 税関職員

密輸取り締まりなどを行う税関職員のうち、一部の部署や役職の職員は、職務遂行上、拳銃の所持が認められている場合がある。これは、特に危険を伴う臨検や捜査に際しての限定的な措置だ。

6. 外国要人の警護官(一時的、特例)

日本を訪問する外国の国家元首や政府要人などの警護を担当する、外国の警護官(SPなど)が、自国の拳銃を日本国内に持ち込み、所持を認められる場合がある。外務省等を通じて厳格な事前申請と許可が必要となる。
例えば、アメリカ大統領を警護する主要な組織である合衆国シークレットサービス(USSS)の職員たちは、その職務の性質上、大統領や要人の生命をあらゆる脅威から守るため、銃器の所持と使用が認められている。日常的な警護に用いるグロックなどの拳銃、近距離での制圧が必要な場面では、H&K MP5等のサブマシンガンを用いる。中長距離の脅威に対応するため、カウンターアサルトチーム(CAT)などが展開する際には、M4カービンやKAC SR-16E3 CQB MOD2.1といったAR-15系の高性能カービンが不可欠な装備となる。遠距離からの脅威を排除するための高精度なスナイパーライフルも使用される。

日本の警察が携行する拳銃の全貌

日本警察が採用している拳銃は、主に5種類が確認されている。

名称口径製造元装弾数重量(約・装弾時)配備開始年
ニューナンブM60.38スペシャルミネベア(日本)5発約700g1970年代後半~1980年代前半
S&W M37(エアウェイト).38スペシャルスミス&ウェッソン(米)5発約550g1990年代後半
S&W M360J.38スペシャル+Pスミス&ウェッソン(米)5発約570g2006年頃~
SIG SAUER P230JP7.65mm(.32ACP)SIG(スイス/独)8発約520g1980年代後半
グロック19(Gen4以降)9mmパラベラムグロック(オーストリア)15発約855g2019年頃~(試験導入)

配備数は以下のとおりとなっている。

名称総配備数(推定)備考
ニューナンブM60約15万丁以上
(全体の過半数)
現在も地方や交番を中心に最も多く使われている主力拳銃だ。
S&W M37数万丁
(約2~3万丁程度)
軽量で携帯性に優れ、ニューナンブの代替として一部導入。
S&W M360J数万丁
(導入中)
ニューナンブに代わる主力になる可能性が高い。
SIG SAUER P230JP数千丁特定の部署・職務に限定されており、汎用拳銃ではない。
グロック19数百~千丁
(試験段階)
特殊部隊や一部県警での導入に留まるが、配備は拡大傾向にある。

各拳銃の能力を実戦的な観点から比較する。

名称弾薬威力命中精度扱いやすさ装弾数リロード総合評価
ニューナンブM60.38スペシャル10m以内非常に高い5発遅い★★★☆☆
S&W M37.38スペシャル10m以内非常に高い(軽量)5発遅い★★★★☆
S&W M360J.38スペシャル+P中~
やや高
10m前後高い5発遅い★★★★☆
SIG SAUER P230JP7.65mm
(.32ACP)
低め8~10m非常に高い8発速い★★★☆☆
グロック199mmパラベラム15m超も可中程度(反動強め)15発非常に速い★★★★★

各拳銃の能力解説

ニューナンブM60: 国産リボルバー。最も多くの警察官に配備され、現在も主力。 老朽化と生産終了による部品調達難により順次退役中。反動が少なく、頑丈で故障が少ないため、新人でも扱いやすいという長所がある。しかし、装弾数が5発と少なく、再装填に時間がかかるのが最大の弱点。

ニューナンブM60

S&W M37(エアウェイト): ニューナンブの後継として輸入された軽量モデル。体力的な負担を軽減したい場合に配備。非常に軽量で携帯性に優れる反面、軽量ゆえに反動が手に響きやすく、照準がブレやすいという側面もある。

S&W M37(エアウェイト)

S&W M360J: 高威力弾(+P弾)に対応した高強度モデル。 一部の警察本部では標準拳銃として導入が進んでいる。+P弾(高威力弾)に対応し、威力が向上している。オールステンレス製で耐久性も高く、バランスの取れたモデル。

S&W M360J

SIG SAUER P230JP: SIG SAUER P230の日本警察仕様モデル。警護課(SP)や警察庁幹部、一部刑事向け。小型で携帯性に優れ、発砲能力よりも携帯性が重視される。薄く小型で隠し持ちやすい。しかし、使用弾薬の7.65mm弾は、貫通力・停止力がやや不足。

SIG SAUER P230JP

グロック19: 装弾数15発の自動拳銃。 一部の県警(埼玉、福岡、警視庁の一部)や特殊部隊(SAT、SIT)で試験的導入され、配備拡大中。9mmパラベラム弾の強力な停止力、高い装弾数、自動装填による高い連射性を持ち、現代の警察活動に対応できる唯一の本格的 軍・警察用拳銃と言える。一方で、安全装置の構造が特殊なため、十分な訓練が必須となる。

グロック19

停止力(ストッピングパワー)の比較

弾種威力備考
7.65mm
(.32ACP)
約200~250J弱め。旧式のスパイ用拳銃などによく使用された弾。
.38スペシャル約270~330J標準的な停止力。人体には十分致命的。スミス&ウェッソンによって設計されたリムド・センターファイア弾薬。
.38スペシャル+P約350~400J.38スペシャルの高威力バージョン。S&W M360Jが対応。
9mmパラベラム約450~600J軍・警察の世界標準。高い貫通力と停止力を持つ。

総合的に見ると、グロック19が最も高性能であり、現場での即応性、威力、装弾数、リロード速度のバランスに優れている。

世界の警察と日本の警察:拳銃から見える治安維持の思想

世界の主要国の警察は、装弾数、威力、連射性を重視した自動拳銃(セミオート)型を主流としている。これは、現代の治安情勢において、より強力な火力と即応性が求められているためだ。

世界主要国の警察用拳銃のトレンド

国・地域主力拳銃弾薬装弾数特徴
アメリカGlock 17 / 19,
Sig P320,
S&W M&P
9mm15~17発自動拳銃が主流。Glockは信頼性が高く、全米で圧倒的な採用実績がある。
ドイツH&K P30,
Walther P99
9mm15発前後H&K製拳銃が多く、近年はP30が標準だ。堅牢でグリップ調整が可能。
イギリス(武装警官)Glock 179mm17発通常は非武装。武装警官(AFO)がGlock17などを携行する。
フランスSIG SP2022,
Glock 17
9mm15~17発SIG製が標準だが、テロ以降Glock 17の採用も拡大している。
イタリアBeretta 92FS9mm15発自国製Berettaが根強い人気を誇る。
中国QSZ-92
(05式)
5.8mm / 9mm15発独自設計の拳銃。中国軍警兼用だ。
オーストラリアGlock 22 / 27.40S&W10~15発威力重視の.40口径モデルが主流だ。
カナダGlock 17,
Sig P226
9mm17発RCMP(連邦警察)はGlock17へ移行中だ。

世界の警察拳銃の共通トレンド

  • 自動拳銃が主流: 1990年代以降、装弾数と再装填速度を重視し、リボルバーはほぼ消滅した。
  • 9mmパラベラム弾が標準: NATO弾であり、在庫性、コスト、性能のバランスに優れている。
  • グロックの圧倒的な普及率: 軽量、簡素、安価、高信頼性といった特性から、米・欧州・アジアで圧倒的なシェアを誇る。
  • 高装弾数: 世界標準では、15発以上の装弾数が当たり前であり、日本の5発と比べると3倍以上の差がある。
  • 人間工学と拡張性: 近代モデルは、個人に合わせたグリップ調整や、ライトなどを装着できるレール搭載が一般化している。

日本と世界の比較

観点世界の警察日本の警察
主流拳銃自動拳銃(Glockなど)回転式リボルバー(ニューナンブなど)
弾数15~17発5発
射撃訓練年数回~毎月年1~2回程度
射撃の優先度初動対応での使用もありうる原則「最後の手段」、威嚇射撃が優先される
安全装置現代型安全メカニズム搭載機械的なトリガー操作中心
威力高(9mmパラベラム)中(.38スペシャル)

日本の警察「撃たない治安」

世界の警察が「機能性・火力・即応性重視」で自動拳銃を標準装備する一方、日本の警察は未だ旧来のリボルバー型拳銃が主流だ。これは、単に装備の遅れというよりも、「誤射や暴発を防ぎ、安全管理を最優先する」という、日本の独自の治安維持思想が強く反映されているためだ。

日本では「撃たない文化」があり、拳銃の使用はあくまで「最後の手段」とされている。そのため、性能の高さよりも、確実に安全に扱えること、そして万が一の事故を防止することに重きが置かれている。

しかし、近年は凶悪犯罪やテロの脅威が増しており、一部の特殊部隊や県警では、世界のトレンドである自動拳銃「グロック19」の導入が進んでいる。これは、日本の警察が、伝統的な安全思想を維持しつつも、現代の脅威に対応するための装備更新を模索している表れと言えるだろう。

日本の警察官は、世界と異なる哲学のもと、日々私たちの安全を守っている。

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