年収、期末手当、退職金の差を明らかにする
地方自治体のトップや議員たちは、いったいどれくらいの報酬を得ているのか。ここでは東京都荒川区を例に、区長・議長・区議会議員の給料と手当、退職金について整理する。
区長の給料と退職金
荒川区長の月額報酬は、1,146,000円。期末手当(いわゆる賞与)は年2回、合計で4.4か月分が支給される。
- 月額報酬:1,146,000円(特別区の最高は1,286,000円、最低は914,400円)
- 年間報酬:1,146,000 × 12 = 1375.2万円
- 期末手当:1,146,000 × 4.4 = 504.2万円
- 年収合計:1879.4万円
区長には退職金制度があり、2292万(任期ごと)となっている。
議員の給料と手当
一般議員(区議)の月額報酬は613,000円。期末手当は年4.4か月分。年収は以下の通り。
- 月額報酬:613,000円
- 年間報酬:613,000 × 12 = 735.6万円
- 期末手当:613,000 × 4.4 = 269.7万円
- 年収合計:1005.3万円
区議には退職金制度は存在しない。また、報酬とは別に以下の制度がある。
- 政務活動費:月額8万円[年額96万円](会派に交付。調査研究、情報収集、研修、広報、広聴、住民相談、各種会議への参加等区政の課題及び区民の意思を把握し、区政に反映させる活動その他区民福祉の向上を図るために必要な活動に要する経費)
- 費用弁償:公務出張時に鉄道賃や日当などを実費支給
議長の給料は別格
議長になると報酬が一気に上がる。荒川区の議長報酬は月額934,000円、副議長は799,000円。
- 月額報酬:934,000円(2024/04/01時点の特別区の最高は956,000円、最低は856,000円)
- 年間報酬:934,000 × 12 = 約1,120.8万円
- 期末手当:934,000 × 4.4 = 約411.0万円
- 年収合計:約1532万円
荒川区は、一般議員より52%高い。全国的に見るとやや例外。
横浜市・千葉市・さいたま市の議長報酬は一般議員より約20〜24%高い。
■ 議長の役割
- 議会の運営全般(本会議、委員会、議運など)を仕切る責任者
- 区議会の代表として、区長・行政との調整・交渉を行う
- 他自治体や国会との会合、慶弔対応などの「外部代表」機能も担う
このため、常に出席義務があるわけではない一般議員と比べて、責任と拘束時間は明らかに多い。職務の性質が異なるため、報酬に差があること自体は合理的といえる。
■ 問題点
議長選出は議員内の投票で決まるため、「報酬目当ての票固め」などの政治的動機が強まる構造が生じかねない。
報酬差が「実際の労働量や責任差」に見合っていない可能性がある。
区民側からは「単なるポストのご褒美では?」という疑念を招く。
報酬差が極端に大きく設定されている理由が、議会側から明確に説明されていないことが問題。
- 具体的な業務量・拘束時間・職務リスクをデータで示すべき
- 条例改正時には市民説明会や意見公募などを設けるべき
- 23区以外の他県近隣自治体との比較も行い、妥当な水準を再検討すべき
報酬の透明性と市民との信頼関係こそが、地方議会の健全性を支える基盤である。議長報酬はその象徴的な論点のひとつだ。
給料と待遇の比較表
区分 | 月額報酬 | 年間報酬 | 期末手当 | 年収合計 | 退職金 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
区長 | 1,146,000 | 約1,375万 | 約504万 | 約1,845万 | 2,292万 | 特別職 |
議長 | 934,000 | 約1,121万 | 約411万 | 約1,532万 | なし | 政務活動費あり |
区議 | 613,000 | 約736万 | 約270万 | 約1005万 | なし | 政務活動費 あり |


給料の差
荒川区では、区長と議長で年収300万円以上の差があり、区長と一般議員との差は800万円以上。退職金の有無も含め、待遇面での格差は明確だ。
なぜ議員には退職金がなく、区長にはあるのか?
区長には2000万円規模の退職金が支給されるのに、同じく選挙で選ばれる区議会議員には退職金が存在しない。この制度の差は、単なる慣習や便宜ではなく、法的立場や報酬体系の設計思想そのものに根ざしている。
法的立場の違い
まず大前提として、区長と議員はどちらも「特別職公務員」だが、勤務形態に大きな違いがある。
- 区長は“常勤”の特別職公務員
区長は任期中、他の職業を兼ねることができない。職務は朝から晩までのフルタイム勤務であり、行政の執行責任をすべて背負っている。したがって、その勤務に対する退任時の「一時的な功労報酬=退職金」が制度として用意されている。 - 議員は“非常勤”の特別職公務員
一方、議員は基本的に「議会出席」「質疑・討論・採決」に限定された職務内容であり、勤務時間も不定。ほとんどの自治体が議員を非常勤扱いとしている。このため、議員報酬は“月額報酬”という名の「職務遂行手当」に近く、退職金の制度設計にはなじまない。
報酬体系の構造の違い
区長の報酬体系は、退職金込みで設計されている。いわば「生涯で支給される報酬の後払い分」として退職金がある。
一方、議員は任期ごとに契約更新される非常勤職であり、支給される報酬はその任期中で完結する形になっている。「退職」や「功績の蓄積」といった概念を制度上想定していない。
また、議員は兼業が可能であり、議員以外の仕事を持っていても構わない(実際、士業や経営者も多い)。この点も、退職金制度とは相性が悪い。
歴史的経緯と世論的圧力
かつては、議員にも退職手当制度があった自治体が少なくなかった。しかし、1990年代以降の財政改革の流れと「議員に退職金なんておかしい」という世論の圧力により、全国的に廃止されていった。
現在では、都道府県議会や政令市議会、特別区議会などでも、議員退職金制度はほぼ消滅している。一方、区長や市長などの首長に関しては、依然として退職金制度が存在しているが、これも近年では減額や廃止を求める声が強まっている。