日本ではなぜ医療用大麻が解禁されないのか

marijuana 健康

パーキンソン病やてんかん、がんによる疼痛など、多くの疾患に対して医療用大麻が有効であることは、世界中で科学的に実証されている。欧米諸国を中心に、医師の処方のもとで使用が許可されている国は増えており、カナダやアメリカの一部の州、ドイツ、オーストラリアなどではすでに治療に使われている。

一方、日本では大麻取締法により、大麻草自体の使用・所持が厳しく禁じられており、医療目的であっても例外は認められていない。これは、医療上の必要性よりも、違法薬物への懸念が優先されていることを意味している。

「大麻由来成分」の薬品はあるが…

厚生労働省は、2023年に大麻草から抽出される成分「カンナビジオール(CBD)」を含む薬品「エピディオレックス」の導入を検討していると報じられた。エピディオレックスは、難治性てんかんに効果があるとされ、すでに欧米では医療現場で使用されている。

2023年に日本では、制度整備が完了し、国内臨床試験も進んだものの、エピディオレックスは重要な治験目標に届かず現時点では未承認となっている。厚生労働省は「申請があれば審査する体制」にあるため、今後の再申請や別製剤が鍵となります。

これらの薬品はあくまで大麻草のごく一部の成分に限定したものであり、本来の大麻草に含まれる他の有効成分(THCなど)との相乗効果は得られない。実際、パーキンソン病や慢性疼痛に苦しむ患者の中には、「合成された成分では効果が足りない」と感じる人が多い。

医療と違法薬物の線引きが曖昧なまま

日本では「大麻=危険ドラッグ」というイメージが根強く、医療用と違法使用の区別が社会的に浸透していない。そのため、医療現場で必要とされていても、法改正が進まない。国会においても、慎重論が大勢を占めており、2025年時点で本格的な制度整備の動きは見られない。

各国の制度はここまで進んでいる

以下に、2025年時点での主要国・地域の医療用大麻に関する制度の状況をまとめる。

国・地域医療用大麻の状況
アメリカ連邦法では違法だが、多数の州で医療用使用を合法化。てんかん、がん、PTSDなど対象。
カナダ2013年に医療用合法化、2018年に嗜好用も合法化。全国で医師の処方により利用可能。
ドイツ2017年から医療用大麻が合法。健康保険でカバーされる場合もある。慢性痛や緑内障など。
イギリス2018年から一部医師が処方できる体制を整備。だが実際には処方数は非常に少ない。
フランス2021年から試験プログラムを開始し、2024年に限定的に医療用解禁。制度はまだ発展途上。
イタリア医療用大麻は2013年から合法。主に国防省が生産管理。痛み、がん患者など対象。
オーストラリア2016年から医療用合法。政府の許可制で、がん、てんかん、不眠症など幅広く対象。
韓国2019年に一部CBD製剤の輸入を条件付きで承認。THCを含む製剤は依然として厳禁。
台湾医療用大麻は禁止されており、CBD製品もグレーゾーン。厳しい規制が続いている。
中国すべての大麻製品が禁止対象。CBDを含む輸入製品も取り締まり対象となることがある。
マレーシア原則全面禁止だが、2022年に医療用大麻導入の検討を開始。制度化には至っていない。

このように、日本の周辺国を含めて、多くの国では何らかの形で医療目的の大麻使用が議論または制度化されている。特に、欧米諸国ではすでに制度として確立され、日常的に患者の治療に使われている。

患者の権利としての医療用大麻

「最後の手段として使いたい」「これで症状が和らぐなら使わせてほしい」──多くの患者がそう訴えている。医療用大麻の使用は中毒や依存を目的とするものではなく、生活の質(QOL)を高めるための医療行為である。日本においても、冷静かつ科学的な議論が必要とされている。

今後に期待される動き

厚生労働省の審議会では、大麻由来医薬品の使用に関する制度整備を検討する議題が増えてきており、近い将来、限定的な医療用使用の解禁が現実味を帯びる可能性はある。ただし、現行の大麻取締法の枠組みでは、実際の使用には法改正が不可欠だ。

医療用大麻の解禁は、感情論ではなく患者の尊厳と医療の科学に基づく判断で行うべきであり、そのためにも、社会全体の理解と議論の成熟が求められている。

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