日本の選挙では、投票用紙に鉛筆で記入するのが基本になっている。なぜボールペンやサインペンが使われないのか、疑問を持つ人も多い。また、「鉛筆なら消して書き換えられるのではないか?」と不正を心配する声も見られる。しかし、鉛筆の使用には明確な理由があり、それと密接に関係しているのが、投票用紙に使われている特殊な「合成紙」の存在だ。
投票用紙には合成紙が使われている
日本の選挙で使用される投票用紙は、一般的な紙(パルプ紙)ではなく、石油由来の樹脂を原料とした合成紙が使われている。ユポ(YUPO)と呼ばれるタイプの合成紙がよく知られており、以下のような特徴がある。
- 耐水性・耐久性が高い
水や破れに強く、投票箱内や開票時に扱いやすい。 - インクが染み込みにくい
表面がツルツルしており、ボールペンやサインペンのインクは定着しにくく、にじみやすい。一方、鉛筆であればしっかりと定着する。 - 折り目が復元しやすい
紙を折ってもクセがつきにくく、すぐに元に戻る。これにより、開票作業時にスムーズに用紙を取り扱うことができる。
このように、合成紙は鉛筆との相性が良く、さらに折り曲げて投票箱に入れられた後も元の形に復元しやすいため、開票作業の効率が格段に上がるという実用的なメリットを持っている。
鉛筆が使われるのは合理的な判断
合成紙に適した筆記具として、鉛筆が選ばれているのは合理的であり、他にも以下の理由がある。
- インクによるトラブルの回避
ボールペンなどのインクは、合成紙にうまく定着しないばかりか、乾くのも遅く、用紙同士がくっついたり、文字が読めなくなったりする恐れがある。 - 読み取りやすさと修正のしにくさのバランス
鉛筆は機械による文字認識に適しており、消し跡が完全には残らないため、意図的な修正は開票時にすぐに判別可能。透明性の高い管理体制と併せて、不正が現実的に行える余地は極めて小さい。 - 管理のしやすさとコスト
鉛筆は壊れにくく、安価で、インク切れの心配もないため、大量使用に適している。
「書き換えられるのでは?」という誤解
鉛筆の使用に不安を感じる人がいるのも事実だが、投票用紙は投票箱に入れられた時点で南京錠で封印され、その後は厳重な管理の下で開票される。複数人の立会人の目の前で開票が行われ、不自然な用紙や不正の兆候があれば即座に確認される体制が整っている。
不正を防いでいるのは筆記具ではなく、公開された透明性のある選挙制度と厳格な運用体制である。
ボールペンで書いたら無効なのか?
持参したボールペンで書いた場合でも、「記載内容が明確であれば有効票とされる」のが原則である。たとえば、以下のようなケースも有効になることがある。
- 最初に別の候補者名を書いたが、取り消し線を引き、その横に正しい名前を記載。
- 誤字があっても、誰のことを指しているかが明確。
ただし、ボールペンで書くと、にじんだり文字がかすれたりして判読不能になるリスクがある。他の投票用紙にインクが付着する恐れもある。そのため、投票所では鉛筆の使用が求められている。
結論
日本の選挙で鉛筆と合成紙が使われているのは、単なる伝統ではなく、選挙の公正性・効率性・安全性を確保するための合理的な仕組みである。不正が可能だと疑う声もあるが、実際には筆記具よりも制度と監視体制こそが信頼の根幹を支えている。表面的な道具だけではなく、その背後にある仕組みにこそ目を向けるべきである。