東京モノレールと京急電鉄が長年担ってきた羽田空港へのアクセスに、新たな選択肢が加わろうとしている。JR東日本が計画する「羽田空港アクセス線」だ。この新線が開業すれば、空港へのアクセスはより便利になる反面、既存路線との競争は激化するだろう。
羽田空港アクセス線とは
JR東日本が2031年度の開業を目指して工事を進めている新たな路線だ。都心や埼玉・千葉方面から、乗り換えなしで羽田空港へアクセスできるようにすることを目的にしている。
具体的には、既存の東海道貨物線などを活用しつつ、羽田空港島へ向かう新たな線路を建設する。この計画には、巨額の費用がかかる。JR東日本が発表した資料によると、建設費用は約3000億円が見込まれている。この費用は、新規に線路を敷設する区間や、既存区間の改良・電化費用などに充てられる。
そして、この壮大な計画はすでに動き出している。2023年6月の起工式を経て、現在は本格的な工事が進行中だ。田町駅周辺では、東海道線などの線路を切り替える大規模な作業が行われ、東京貨物ターミナル駅付近では、休止中の貨物線の改修や車両留置線の整備が進められている。羽田空港の地下でも、新駅の建設工事が着々と進んでいるという。
競合激化のなか、モノレールの行方は
この新線の開業は、東京モノレールと京急電鉄にとって大きな影響を与える。特に、都心からのアクセスという点で競合関係になる東京モノレールにとっては、利用客が減るのではないかという懸念がある。
しかし、この三者が共倒れするのかというと、そう簡単な話ではない。それぞれに強みがあり、うまく棲み分けをしていく可能性が高い。
東京モノレールは、浜松町と空港を結ぶ路線として、その地位を築いてきた。羽田空港アクセス線が開業しても、沿線にある天王洲アイルや流通センターといった駅への需要は変わらないだろう。空港利用客だけでなく、地域の足としての役割も担うことで、独自の立ち位置を確立するはずだ。また、JRが止まった際の代替ルートとしても、その価値は高まるかもしれない。
京急電鉄は、品川や横浜方面からのアクセスに強みを持つ。運賃が比較的安価なことや、すでに多くの利用客に定着していることが強みだ。JRの新線は、都心や埼玉・千葉方面からの客層をターゲットにしているため、京急とは異なる客層を確保することになるだろう。
羽田空港アクセス線は、何といっても都心からの「乗り換えなし」という利便性が最大の武器だ。東京駅や新宿駅といった巨大ターミナル駅からダイレクトにアクセスできるのは、特に荷物が多い旅行者にとっては大きな魅力となるだろう。
老朽化対策も課題に
こうした厳しい競争環境のなか、東京モノレールは老朽化という課題にも直面している。開業から長い年月が経ち、橋脚や車両の維持管理には莫大な費用がかかる。
東京モノレールは、安全・安定輸送を継続するため、計画的に設備投資を行っている。鉄道構造物の耐震補強や補修工事、信号機器、電気設備の更新など、大規模な修繕が欠かせない。過去の事業計画などから、こうした安全対策に数百億円規模の投資が継続的に行われていることがわかる。これは、競合路線が開業しても、モノレールを今後も重要な路線として維持していくという意思の表れだろう。
新たな路線が開通することで、羽田空港へのアクセスはより便利になる。それぞれの路線が、それぞれの強みを活かして共存していく。これからの空港アクセスは、利用者にとってさらに選択肢の多いものになりそうだ。