公的な要請に応じたハンターに下された処分
2018年、北海道砂川市でヒグマが出没し、市の要請を受けたハンターである北海道猟友会砂川支部長の池上治男氏が駆除を行った。住民の安全を守るための緊急的な対応であったにもかかわらず、池上氏は後に猟銃所持許可を取り消されるという処分を受けた。この処分を不服とした池上氏が提訴した裁判は、現在、最高裁で審理されることになっている。
出来事の時系列
- 2018年8月:北海道砂川市にヒグマが出現。市の要請で出動したハンター池上氏が駆除。
- 2019年4月:北海道公安委員会が、池上氏のライフル銃所持許可を取り消す処分を下す。
- 2021年12月:札幌地裁が、公安委員会の処分は「裁量権の逸脱」にあたるとして、処分を取り消す判決。
- 2024年10月:札幌高裁が、地裁の判決を取り消し、池上氏の請求を棄却する判決。
- 2024年11月:この高裁判決を受け、北海道猟友会がヒグマ駆除の要請を拒否することを検討していると報じられる。
- 2024年12月:池上氏が札幌高裁の判決を不服として最高裁に上告。
地裁と高裁で分かれた判断
この裁判は、地裁と高裁で判断が分かれたことで大きな注目を集めている。
- 札幌地裁の判断: 池上氏が発砲した場所の背後には高さ約8メートルの土手があり、弾丸が建物に飛んでいく危険性は低いと判断。公安委員会の処分は「裁量権の逸脱」に当たり、取り消すべきであるとした。
- 札幌高裁の判断: 土手に当たった弾丸が跳弾する可能性を指摘し、危険性が高かったと判断。公安委員会の処分は妥当であり、池上氏の請求を棄却した。
地裁と高裁の判断を分けたのは、「危険性」に対する認識の差だ。地裁がバックストップとしての土手を重視したのに対し、高裁は跳弾の可能性を指摘し、より厳しい判断を下した。
法改正の動きと最高裁への期待
この高裁判決は、行政の要請で駆除を行っても、その行為が法的な不利益につながる可能性があると認識されたため、大きな波紋を呼んだ。この事態を受け、政府は鳥獣保護管理法などの改正案を成立させた。これは、公的な要請に応じたハンターを保護するためのもので、市町村長の判断で市街地での銃猟を可能にするなどの内容が含まれている。
こうした動きは、現在の法律が緊急時の駆除活動を十分に保護できていないという、社会全体の問題意識を反映していると言える。
最高裁の判断が注目されるのは、この裁判が、単なる個人の権利を巡る争いにとどまらないからだ。もし高裁判決が確定すれば、同様の事態が全国で発生し、鳥獣被害対策に深刻な影響を与える可能性がある。
市民の安全を守るための行為が、法によって罰せられるという不条理な状況を回避するためにも、最高裁には、法目的と現実のギャップを埋めるような、より広い視点からの判断が期待されている。