日本が外国から侵略の危機に瀕したとき、アメリカはすぐさま駆けつけてくれるのか?
多くの人がそう考えるかもしれないが、日米安全保障条約の条文を読み解くと、必ずしもそうではない現実が見えてくる。
第5条が示す「共通の危険」とは
日米安全保障条約は、日本の安全保障の要としてしばしば引用される。特にその第5条は、日本の防衛におけるアメリカの役割を示す重要な条項だ。
原文(ARTICLE V)
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes. Any such armed attack and all measures taken as a result thereof shall be immediately reported to the Security Council of the United Nations in accordance with the provisions of Article 51 of the Charter. Such measures shall be terminated when the Security Council has taken the measures necessary to restore and maintain international peace and security.
翻訳
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。この種の武力攻撃及びその結果としてとられたすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従い、直ちに国際連合安全保障理事会に報告されなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置をとったときは、終止しなければならない。
この条文のポイントは二つ。一つは「武力攻撃(armed attack)」であること。単なる威嚇や危険にさらされただけでは、この条文は適用されない。そしてもう一つ、より重要なのが「自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め(dangerous to its own peace and safety)」というアメリカ側の認識だ。
つまり、日本に対する武力攻撃が発生したとしても、アメリカがそれを「自国の平和及び安全を危うくするもの」と判断しない限り、第5条に基づく軍事行動は起こさないことになる。
米軍基地への攻撃とそれ以外
日本国内の米軍施設への攻撃は、アメリカの軍事資産や人員への直接的な攻撃であるため、アメリカはこれを「自国の平和及び安全を危うくするもの」と認識する可能性が極めて高い。この場合、アメリカが軍事行動に出る可能性は非常に高いだろう。
しかし、米軍施設以外の日本の領土、例えば日本の自衛隊基地や民間施設への攻撃の場合、アメリカはそれを「自国の平和及び安全を危うくするもの」と判断するかどうかを個別に決定する。攻撃の規模、性質、アメリカの国益への影響など、様々な要素が考慮される。
具体例を考えてみよう。尖閣諸島付近で自衛隊機が他国軍機に危険にさらされても、それは「武力攻撃」には至っておらず、アメリカが直接的な軍事行動に出ることはまずない。北朝鮮がミサイルを発射しても、それが直接アメリカの領土や施設を狙ったものでない限り、アメリカは安保条約に基づいて軍事行動を起こすことはない。これらの状況では、安保条約第5条が発動される閾値に達していないのだ。
「協議」の重要性
もし日本が侵略の脅威に直面した場合、まず日米両国は条約第4条に基づいて「協議(consult together)」を行うことになる。
原文(ARTICLE IV)
The Parties will consult together from time to time regarding the implementation of this Treaty, and, at the request of either Party, whenever the security of Japan or international peace and security in the Far East is threatened1.
翻訳
両締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威があるときは、いずれか一方の締約国の要請に応じ、いつでも協議するであろう。
この協議で、事態の深刻さや対処方法が話し合われ、アメリカがどのような支援を行うかが決定される。それは軍事行動に限らず、情報共有、ロジスティクス支援、外交的圧力など、多岐にわたるだろう。
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第5条に関する国会質疑と政府答弁
2022年6月10日、衆議院議員の井坂信彦氏は「日本有事の際、本当に米軍は日本を守るのかに関する質問主意書」を政府に提出した。質問の趣旨は、日米安保条約第5条が尖閣諸島など日本の領土に対する武力攻撃に適用されるとしても、「米軍が自動的に出動するとは限らないのではないか」「米議会の承認が必要なのではないか」といった、日本国民の抱く当然の疑念を明らかにするものだった。
これに対し、政府(岸田文雄内閣総理大臣)は同年6月24日、以下の趣旨で答弁書を提出している。
- 米国は、これまで何度も日米安保条約第5条に基づく対日防衛義務を確認しており、日本政府はその義務履行に「信頼を置いている」。
- 米国の国内法(つまり米国憲法)について、日本政府は有権的に解釈できる立場にないが、米議会は条約締結を承認している以上、防衛義務を妨げるような行動はとらないと考える。
- なお、「米軍が実際に出動せず、武器弾薬の提供にとどまるような場合に、第5条が履行されたことになるのか」という点については、「仮定の質問」であるとして明確な回答を避けている。
政府は明言を避けてはいるが、答弁書の構成と語調から読み取れるのは、「米軍の出動は自動ではなく、米国憲法と議会の承認手続を経て判断される」という事実である。これは、条文にある「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という表現の意味そのものだ。
したがって、現実には中国が尖閣諸島を武力占領したとしても、その瞬間に米軍が出動する保証はない。米国の対応はあくまで自国の判断によって決まり、政治的・軍事的・経済的コスト、米国民の世論、そして議会の意思が大きく影響する。
日本の防衛が米国の「信頼」に委ねられているという構図は、ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにした日本国民にとって、極めて現実的な不安材料である。
日本が外国からの侵略の脅威にさらされたとしても、アメリカが自動的に、そして即座に軍事行動を起こすわけではないことを理解しておく必要がある。日米同盟は強固だが、その支援は常にアメリカ自身の国益と判断に基づいて行われるのだ。